運動について会話をしていると、有酸素運動、無酸素運動、という言葉を聞くことがあります。
人によって解釈がやや異なりますが、無酸素運動を体内の酸素がなくなった状態と思っている人も少なくない印象です。
生命維持のために常にエネルギーを生産する必要があり、運動をするとさらに必要なエネルギーが増えます。この時にエネルギーを作る過程で酸素を使う経路と酸素を使わない経路があります。有酸素性代謝、無酸素性代謝とも呼ばれます。大きくは分けると3つのエネルギー生産回路があり、2つは無酸素性、1つは有酸素性の代謝です。
筋肉を収縮させたりするためのエネルギーをATPといい、その主な源となるのが脂肪と糖です。
下の図はエネルギー生産を簡略した図になります。
実際はかなり複雑ですが、代謝の大まかな概要を掴んでいただければ十分です。

脂肪の分解は糖質よりも分解のステップが長い。酸素をエネルギー生産に使うのは代謝の最後になるので時間がかかる。そのためエネルギー需要が急に高まるとすぐには代謝が追いつかないので、強度の高い運動は無酸素性の代謝に頼ることになる。しかし無酸素性代謝でのエネルギー生産量は少なく、その過程で疲労物質も生産されるので長くは持続できない。
ざっくり言うならこんな感じです。
「乳酸が溜まる」とよく聞くことがあると思います。糖はピルビン酸というのに分解され、細胞内のミトコンドリアへと入っていきます。しかし分解スピードが早く、ミトコンドリア内に取り込めない量のピルビン酸が生産されると、乳酸に変換され、別の細胞、または血液へと運搬されます。乳酸自体はエネルギー源となり、疲労物質ではないのですが、その他の疲労物質との関連性、乳酸が多く生成される=糖の代謝が活発=疲労物質が多く発生されているのように、乳酸を指標に疲労度や運動強度を測定したりします。
一番下にあるCPとは、クレアチンリン酸と呼ばれ、すでに筋肉の細胞に貯蔵されいます。1ステップでエネルギー(ATP)に変換されますが、量はごくわずかなので5秒以内の運動時によく使われます。
スクワットの例で言うなら、限界の重量を持ち上げるときは、ほとんどこの経路に頼ることになります。椅子に座った状態から立ち上がる時などもこちらです。
重いものを持ちあげる時や速く走る時など、瞬時に多くのエネルギーを必要とします。後者の酸素を使わない経路の方が素早くエネルギーを生産できるので、こちらの経路に頼る比重が大きくなります。そのことから100m走やスクワットなどの筋トレが無酸素運動と言われることが多いと思います。ただこの時に身体の酸素がなくなっているわけではなく、むしろ体内の酸素量は安静時よりも増えています。必要なエネルギーを作るために酸素の配給が追いついていないと考える方がいいです。
酸素を使わないエネルギー生産時には疲労物質も生産されるため、長くは保てません。
スクワットは無酸素運動、などのように種目自体を有酸素か無酸素で考えている人も多いようですが、これも誤解の一つです。例えばスクワットで100kgを持ち上げることができる人います。この人が95kgを持ち上げる場合は、瞬時に多くの筋肉を使うので無酸素性のエネルギー生産に頼る必要があります。そのため長くは継続できません。数回で持ち上げることができなくなります。しかし30kg程度だったら数十回、または100回くらい持ちげることができます。この場合は酸素を使ったエネルギー生産が需要に追いつくので、エネルギー生産のほとんどが酸素を利用した経路で補われます。
有酸素、無酸素と考えると、どちらか一方だけに頼るイメージをしてしまいがちですが、基本はどちらも相互に働いていて、頼る比重が異なるだけです。
スクワットの場合、最初の数回はそれまで動いていない状態に比べ、急に運動量が増えるので無酸素性の代謝が多く働き、その間に心拍数が上がって酸素の配給が増えるにつれ比重が有酸素性にシフトします。
そのため同じスクワットでも回数を多くこなせる場合は、最初の数回と後半ではエネルギーの作られる比重が異なります。
そのため運動種目で判断せずに、自身にとって長く続けられる強度の運動かどうかで判断するといいです。
次に酸素がどのように運ばれるのか、心肺機能の観点からです。
心肺機能という言葉はよく使うけど、実際にはよく分かっていない人は多いと思います。
ここでは身体が酸素を使う仕組みの大まかな概要をつかんでいただけるように書いています。
大きくプロセスを分けると、摂取、運搬、利用、という流れになります、
坂道に置かれたボールを想像すると高いところから低いところへと転がる様子が分かると思います。
空気も物質であり、地球の重力を受けます。空気の重さを示すのが大気圧です。
坂を転がるボールのように、空気も圧力の高い方から低い方へ流れます。肺の中の圧力が大気圧より低い安静時には空気は外部から肺に流れ込み、空気を取り込んだ肺の圧力は外部より高くなるので今度は肺から外部へと空気は流れます。呼吸の仕組みはこんな感じです。
肺の中にある肺胞で酸素と二酸化炭素が交換されます。
この時に肺胞から血液に渡った酸素が摂取されたことになります。
肺胞を取り囲む毛細血管が多いほど入口が多いため、受け渡しが容易になると考えてください。運動をしている人としていない人では毛細血管の量に大きな差があり、1回の呼吸で摂取できる酸素の量にも差が出ます。
血中に渡った酸素はヘモグロビンと結合して筋肉などの体内組織へと運ばれます。96~99%のヘモグロビンが酸素が結合している状態が正常といわれます。
標高が高くなると大気圧は下がり、肺内部の圧力との格差が小さくなるので(坂道の傾斜が緩やかになると、急な斜面と比べ転がるボールの速度が遅くなるイメージ)、1回の呼吸で肺に流れる空気、血中に渡る酸素量も減少することからヘモグロビンと酸素の結合率も低下します。
心臓の拍動で血液は身体中に送り出されます。持久系の運動をしている人は心臓が大きくなるため1回の拍動で送り出す血液量も増加します。それに伴い運搬される酸素量も増えることになります。
ヘモグロビンの量、1回の心臓の拍動で送られる血液量、心拍数が酸素の運搬量に影響します。
筋肉にはヘモグロビンと似た、ミオグロビンという酸素と結合するタンパク質が存在します。(概要をつかむためなら名称を覚える必要もないのですが、酸素を筋肉の入り口まで運ぶのがヘモグロビンとすると、筋肉の入り口からミトコンドリアへ酸素を運ぶシャトルバスのようなものと考えてください)
代謝の部分で説明しているように、筋肉内の細胞ミトコンドリアで酸素は利用され、エネルギー生産が行われます。この時に二酸化炭素が生産されるので、二酸化炭素が血中を運ばれ、血中から肺、呼吸と共に出ていきます。
トレーニングによりミトコンドリアの容量、筋肉の毛細血管量の増加すると酸素利用がスムーズになります。
このように、摂取、運搬、利用の一連の流れが効率よくできるほど、エネルギー生産が素早くなります。これらの機能を統一して心肺機能と考えましょう。
代謝だけ早くなっても、酸素配給が追いつかないと有酸素性のエネルギー生産は行えません。
酸素だけ過剰に配給され、代謝が追いつかない場合も同じです。
実際にはそうなることがないように、身体はコントロールしています。
低酸素トレーニング、高地トレーニングなどではこの一連の流れが平地に比べ遅くなるので、同じ運動を行った場合でも身体は無酸素性の代謝に多くを頼る必要があります。そのため苦しくなる、疲れやすいなどが生じます。そのような負荷がかかることで、身体は酸素の運搬能力などを向上させようと反応します。
だいぶ簡潔に書いているので実際にはもっと色んな、かつ複雑な要素が絡んでいます。
色んな要素で酸素の利用、代謝の効率性が成り立ち、エネルギー生産が行われているのが分かります。万能のトレーニングが存在しない理由もこのためで、色んな要素があり、それぞれの要素が負荷の種類によって異なった反応をするからと考えてください。
コメント