腕振りをまっすぐに、ストライド(歩幅)を伸ばす、ピッチ(脚の回転)を早くする、または足の接地の位置、こんな風にランニングフォームについて考え出すといろんな要素が思い浮かびます。
目的としてはより効率良く、故障の予防、見栄え良く、など個人によって用途は違うかもしれませんがフォームを変えるが最終目的ではなく、変えた先に目的があると思います。
そのためフォームを変えるとその先の目的が一致する必要があり、変わりはしたが目的とは異なる結果とならないことが大切です。
ここではどのようにランニングフォームを変えるとか、フォーム変更にどんなメリットがあるとかではなく、変えようと思った時、またはすでに改善に取り組んでいる時に考えてほしいことです。
人の動きは複数の関節の動きが連動することで成り立っています。その関節を動かすのが筋肉、筋肉が収縮するためには神経のつながり、など数えればキリがないほど多くのつながりによるシステムとなっています。
ランニング動作も相互の繋がりのため何か一つの動きに変更を加えれば、別の部位に影響を及ぼし、影響を受けた部位からさらに別の部位にもと2次、3次、4次と影響が連なります。
そのため腕振りを変える、ストライドを意識的に伸ばすなど効率を求めて変更したのに、結果としてはより効率が悪く、疲れやすくなったなど起きることがあります。ストライドは伸びたがピッチが遅くなり結果ペースも遅くなったなど
例えば膝を曲げた時に内側に倒れるからまっすぐ曲げるようにすると今度はつま先がより外側を向いてしまう、体重を外側にかけて曲げようとするだけでも色んな変化が起きます。
おそらく何かに変更を加えようとするときに思うことは、「他は変わらず、ある特定の部位だけを変更する」という想像のもとで行っていることが多いかもしれません。
変更による影響が目で見える場合もありますし、体内のエネルギーの使われ方(どこの筋肉がどの程度働いている、酸素消費、エネルギー源の割合など)は目に見えない変化です。フォーム変更により走りの効率性を求めることは同じペースで走った時にトータルエネルギー消費が少なくなるということです。この点を判断するのは難しく、効率が良さそうと(見た目)、効率がいい(仕組み)には違いがあるからです。かっこいいフォーム(主観的な判断なのでどのフォームがかっこいいとは言えませんが)の人が効率がいいかどうかも分かりません。
まずは何かに変更を加えるということは2次、3次の変化も起きることを頭に入れてる必要があります。その上でトータル的にその変更は目的に対していい方向に働いているのか、悪い方向に働いているのかの判断基準をどうするのかを決めないといけません。
よりシンプルな片足立ちの例を紹介します。
目的は片足で立つことではなく、足裏全体で体重を支え、どこかの部位が過負荷になることなく、より少ない力で重力に抵抗することです。
左の写真では身体が左足に偏っているのが分かります。
どこかの力がうまく働いておらず(臀部、足回りなどのケースが多いですが、個人の傾向を見るまでは分からないのでここでは具体的にどこかなどは説明しません)この時に「身体をまっすぐ」と伝えると確かに上体を中央に戻すことはできます。しかし今度はお尻が横にスライドするなどして、確かに変化はしたが目的に対して良くなったとは言えません。
うまく働いていない部分、過剰に働く部分を見つけ、その理由は筋力不足か、関節の動きが悪いからか、または柔軟性不足か、などを掘り下げます。
このように身体の特性を詳しく見ながら、目的に対して有効だと思う介入を行います。
ここでも2次、3次の影響を想定します。例えばうまく働いていない部位に力を入れれる動作介入をした影響で過剰に働いていた部位の力が抜けた、そしてすでに安定していた部位に変化はなしなどの場合は良い反応です。ただ安定して働いていた部位が今度は過剰に働きすぎた、力が入っていた部位が抜けてしまった、などが起こることもしばしばあります。反応の仕方を見て介入方法を変えるなど対策して今の段階ではここまでという折り合いをつけるポイントも決めなくてはいけません。
一見シンプルな「片足立ち」も色んな体内の組織がシステムとして働いた結果です。これが動くとなればより複雑なシステムというわけです。
なのでランニングフォームに手を加えるということは複雑なシステムに手を出すということです。
一つの変更は2次、3次と次々と影響が及ぶということを忘れずに、目的に対して判断基準を明確に、折り合いをつけるポイント(変更前より良くなっている)を決めなくてはいけません。
フォーム改善に取り組むことには反対ではありません。ただ安易に勧めない理由、アドバイスをしない理由は具体的な身体の状況が分からない以上は具体的な対策も考えれないからです。
指導の中ではフォーム改善というよりは、上記の片足立ちで述べたような姿勢の維持、力の使い方を教えるなど、身体の機能を整えるコンディショニングとして行っています。その結果、フォームに変化が出る人もいれば、出ない人もいます。
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