「ランニングフォームが間違っていないか」
ランニングの練習を始めたばかりの人、記録が伸び悩む人、が少なからず考えたことがある問題だと思います。
ただ漠然とフォーム改善と考えても、何を目的とした改善なのかを理解していないと、練習の方向性がズレてしまう原因となります。
大きく考えると
短距離走が速くなりたいのか、長距離走が速くなりたいのかでまずは考えていいと思います。
スピードを最大化する、エネルギーを効率よく使う(エコに走る)の違いとも言えます。
50m走や100m走など、短距離走を速く走りたい時に行うフォーム改善、またはフォーム習得と長距離走、マラソンを走る時に少ないエネルギーで効率よく走りたいフォーム改善では必要なことも異なります。
そして繰り返す故障や走れるけど動きがおかしいなど、不調などを改善する場合のフォーム改善となります。
まずは漠然とフォーム改善と考えずに、何を目的としているのかをはっきりさせましょう。
短距離走を速く走れるようにすることが目的なら、技術練習は大切です。正しいスピードの出し方、要素を理解して練習に取り組まないと、ただがむしゃらに走るだけではスピードの向上は難しいです。
短距離走では以下のように5つのセクションで分けられます。
1.スタートの反応速度
2.スターティング(バランスの取れたポジションから素早く、高い力を発揮し、効率よく走るポジションに移行する)
3.トップスピードへの加速
4.トップスピードの維持
5. 減速の抑制
100mのタイムを縮めるなどの目的の場合は各セクションごとの練習、そのセクション毎に必要な要素を鍛える、セクション間の繋ぎをスムーズにするなどの技術練習が必要です。また加速時のフォーム、トップスピードでのフォームも異なります。
短距離走を速くするが一番の目的でなくでも、正しく地面に力を加える、瞬発的な力の発揮を学ぶには、長距離走を走る人でも役立つことは多いです。
長距離走では少ないエネルギー(酸素)消費で走ることが重要です。最近ではランニングエコノミーと呼ばれることもあります。同じペースで走った場合に、酸素の消費を少なくすることができれば、その分余裕が持て、長い時間ペースを維持することができます。
効率よくエネルギーを使えているか、走れているかどうかは、身体の内部で起きていることで走りの外見だけでは判断できません。
121人のランニングコーチに5人のランナーの動画を見せて、走りの効率がいい順番に並べてもらう研究があります。
全問正解は一人もおらず、3人のランナーを効率のいい順に正しく並べれたコーチが全体の6%、2人が残りの12%です。
参加したコーチの82%のコーチは正しく全て間違いということです。
もちろん全く走っていない人と長年の練習を積んだランナーを見て、どちらが効率のいいフォームかを当てることは簡単です。問題は走力の近い人同士でどちらのフォームが効率がいいのか、またフォームを変えたら(腕振りやピッチ数、歩幅など)効率性が良くなったのかどうかを見た目で判断するのは難しいということです。
幸いにも短距離走、スピードの最大化とは異なり、長距離走の場合はまずは走ること、走る距離、時間を伸ばすことで身体は負荷に順応して、効率よくエネルギーを使えるようになります。
走る練習量をどのように増やすのかが、効率のいいフォームを身につける上でも大切です。
真下接地という言葉を最近は聞くことが多いです。
身体の重心の真下に足を接地することでブレーキ動作を少なくすること。それによりスピードのロス、接地時間の短縮、地面からの反発を効率よくもらう、などが目的です。
左の写真が短距離走の練習。右が長距離走の練習です。


スピードを最大化する時は足が地面に接地する時に足の中心が重心の真下(へその位置あたり)にきていることが大切です。ブレーキを少なくする上では重要になります。
ブレーキ動作が強いとその分衝撃も強くなります。これを全て悪のように考える必要はなく、一方でこのブレーキが地面からの反発の強さにもなります。
走る動作は細かいジャンプ動作の繰り返しで、地面からの反力と自身で発揮する力が合わさって身体が宙に浮きます。
この反力を上手に利用することがエネルギーを少なくする上で大切です。
右の写真を見ると分かるように、実際には重心の真下ではなく、やや前方に足が着いているのが分かります。
スピードを最大化する時のフォームをそのまま、長く走る時のフォームに応用してしまうと目的とは異なる結果を得ることにもなります。
例えばスピードを出しやすくする動作に取り組んだ後に少し走ってみるとします。「楽に走りやすい」と感じるでしょう。しかし効率よく少ないエネルギーで走れているかどうかは、その後に長く走ってみないことにはわかりません。
動き出しは軽くても、エネルギーロスが多く、少し時間が経ってから一気にキツくなるという経験は私も何度もしたことがあります。
同じランニング、と言ってもそれぞれで必要な要素が異なります。
フォーム改善を考えるときに何を目的とした改善なのか今一度考えてみてはどうでしょうか。
スピード、エコ、いずれにしても、1回の練習で劇的な変化を望むものではなく、繰り返しの練習で改善していくことが大切です。
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