「閾値走、LTペース」
ランニング雑誌や練習会に参加する方々ならこのような言葉を聞いたことがあるかもしれません。
なんだそれは?と思う人もいるでしょう。
「乳酸で足がパンパン」などと、ダッシュをしたりときつい運動をした後にこのような言葉を使ったり、耳にしたことはあると思います。
意味ははっきり分からずとも「乳酸」という言葉は多くの人が知っていると思います。
閾値、LTというのは体内で「乳酸閾値」を簡略化した言葉で、要は体内で乳酸が多く作られ始めるあたりの強度で走りましょうということです。
といってもどのくらいのペースがこの乳酸閾値に値するのか分からないという人がほとんどだと思います。
ハーフマラソンくらい、1時間くらいなら保てるペース、と言われることもありますが、はっきりとは分かりません。
トップの選手には練習中に血液を採取して血液中の乳酸濃度を計測する人もいます。
ただ一般の人ができる現実的なやり方ではないです。
ここではLTはこのくらいの強度で走りましょうというアドバイスをするのではなく、簡単にエネルギーがどのように作られるのか、なんで乳酸と疲労が結びつけられるのか、それによりLT走という言葉が使われるのかを知ってもらえればいいかなと思います。
Vo2maxのところでも書きましたが、人間が活動する上ではエネルギーが必要で、エネルギーを作る過程で酸素を利用します。有酸素運動と呼ばれるのもこのことからです。
エネルギー源は体内に貯蔵された脂肪と糖がメインです。グリコーゲンという言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。筋肉内に蓄えられた糖をグリコーゲンと呼びます。
この2つのエネルギー源ですが脂肪の方が貯蔵量が多いため、できるだけ身体は脂肪をエネルギー源として使います。
ただ糖の方が分解しやすく、素早くエネルギーに変換できるので、運動強度が高くなると素早くエネルギー需要を満たすために糖を多く使い始めます。
脂肪も糖も分解されながら最終的には筋肉内の細胞であるミントコンドリアに入り、酸素を利用してエネルギーに変換されます。この時にできるエネルギーを有酸素性運動エネルギーと呼ばれます。
ただ糖はミトコンドリアに入る前の分解段階でもエネルギーを生産します。この過程でできるエネルギーには酸素を利用しないので無酸素性運動エネルギーと呼ばれたりします。
ペースを上げるとすぐにエネルギーを作らないといけないので、素早く分解できて、分解途中でもエネルギーを生産できるため、徐々にエネルギー比重が糖の方へ傾きます。
ペースが上がりどんどん分解される糖ですが、一度にミトコンドリアに入れる量にも限度があります。
糖の分解スピードが早まり、ミトコンドリアに入れる量を上回ると、ミトコンドリアに入りきれない糖が出てきます。
イメージとしては蛇口から出る水の量が排水溝に流れる量を上回るとシンクに水が溜まり始めるような感じです。
せっかく分解したのに入りきれないのは勿体無いので一旦、すぐに分解できる状態を保つために乳酸という形で血液中に流れ込みます。
乳酸が疲労の原因と思っている人もいれば乳酸は疲労物質ではないと聞いたことがある人もいます。
乳酸はすぐにミトコンドリアに入れるように分解しやすい形で保たれた糖であり、疲労物資ではありません。ただ糖を分解する過程でエネルギーができる一方、同時に別の疲労物質も生産されます。
そのため乳酸が多くできているということは糖が多く分解されているということで、別の疲労物質も生産されていることになります。
疲労との関連性があり、分かりやすい指標として乳酸が用いられるため疲労物質と混同されるのでしょう。
エネルギー源の比重が糖に傾き始め、ある点を超えると、血液中の乳酸濃度が高まり始めます。
このあたりのペースをLTペース、乳酸が増え始める閾値として乳酸閾値、その付近のペースで走ることを閾値走、LT走と呼ばれたりします。
疲労物質がなんにせよ、エネルギー源を糖の分解に頼るほど、疲労物質が多く生産され、ペースを保てなくなります。
また酸素を利用しないエネルギー生産、無酸素性運動エネルギーに頼る割合が多くなることから、きつい運動を無酸素運動と呼んだりします。身体から酸素がなくなったわけではありません。
このようなペースで走ると身体は次に備えるため脂肪の分解を早め、できるだけ糖を使う割合を減らすように順応します。また疲労物質を素早く処理する、乳酸を再度エネルギーとして使うことを学ぶなどの効果もあります。
このような効果を求めてLTペースで走りましょう、と言われています。
ある点、と述べましたが、エネルギーの比重はグラデーションのように変化するので、特定のペースから1秒でもずれると効果が低くなるなどそんなことではありません。
「なんか地味にキツけど、それなりに走れるな」くらいの感覚で大丈夫と思います。
またLTペースで走ることだけがLT強化というわけでもありません。
Vo2maxのところでも述べたように、言葉に惑わされて難しく考えすぎないようにしましょう。
大事なことは継続しつつ、色んなペースで色んな距離を走ってみることです。
※ここで述べたエネルギーや乳酸については例えを用いて簡略化しているので、詳しく学びたい方は運動生理学などの専門書を読んでみるといいです。
・パワーズ運動生理学
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