形ではなく、意図を見る——練習を活かすための考え方

「一形の勝を以て、万形に勝たんとするは、不可なり」
『孫臏兵法』に書かれた言葉があります。

中国の軍事家の言葉ですが、過去の戦争の勝利においてどのような陣形を取ったかを調べ、それをそのまま用いても、次の戦争で勝てるわけではないことを示しています。

結果や現象の多様さにばかり目を奪われ、その原理に気づかなければ手口は見破れない、と。
戦争で用いる軍の態勢とは意図の表出であるとも言われています。知るべきは形ではなく意図であり、その意図をどのように形にするかという過程での判断だと思います。

相手軍との対戦である戦争、または一対一のチーム対戦である野球やサッカー、バスケットボールなどは、応用をイメージしやすいかもしれません。しかし、ランニングの練習にも同じように応用して考えることができると思います。

有名な選手でも、身近な知人や友人でも、マラソンで良い結果を出したとします。その結果の後に、直前で行っていた練習メニューが公表されたとしましょう。
上記の例で言うなら、その人の練習の意図を知らずにメニューだけを真似しても、うまくいかないということです。

何より、練習を進めるうえで大事なのは、メニューに書かれていない部分です。インターネットや雑誌上に出てくる練習メニューの例には、疲労などの不調時や、足の痛み・体調不良時にどのように練習や休養の判断をしたのかは書かれていません。また、その人の生活スタイルも考慮されていません。

練習の意図が明確であれば、その時の状況に応じてメニューはいくらでも変更可能です。
例えば、目標のレースに向けたペース感覚を磨く意図を持ってメニューを組んだとします。15kmをマラソンペースで走る予定でしたが、前日の残業で睡眠不足となり、状態が思ったより良くない。

今日の練習の意図——目標のマラソンペースの感覚を磨く——が分かっていれば、これを3km×5本、5km×3本などのインターバル形式にして、今の状態に合わせて達成しやすい形に変更することができます。または、状態を整えて翌日にスライドすることもできます。

しかし、意図が分かっておらず、状態が良くないからといってペースを落として15km走ることを優先してしまうと、マラソンペースの感覚を磨くという意図とは異なるものになってしまいます。

心肺に負荷をかける意図を持って練習に取り組み、その日の状態に合わせて最終的な判断をする。その結果としてメニューが形になります。

「軍の態勢を現す極地は、無形に到達することがある。」
これは、意図に応じた判断次第で、いくらでもメニューを変化させられるという点と通じるものがあります。

運動指導を志す知人が、コンディショニング指導の現場に見学に来たときのことです。私は「この運動種目を取り入れてみよう」と伝えました。
しかし、なぜこの種目をこの人に行っているのか、という点については質問されませんでした。

もちろん、人の練習メニューを参考にすること自体は悪いことではありません。自身の練習の目的や意図が明確で、それをどう形にするか迷っているときに、表現の一つとして他人のメニューを参考にすることは役に立ちます。

もし他人に練習について聞くときは、メニュー(形)だけでなく、練習の意図をどのように形にしているのか、その過程に目を向けてみると良いと思います。

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