北海道釧路市で行われた花王陸上部の合宿に帯同してきました。
ここでの私の役割は選手と一対一でのコンディショニング指導がメインとなります。それと同時に、今年度からグループでのドリル指導もチームとして取り入れ始めています。
今回もポイント練習と呼ばれる、強度の高い練習前に取り入れるウォームアップのためのドリルをテーマに行いました。
ランニングフォームドリルと称され、市民ランニングクラブや雑誌、動画でも色んなものが紹介されていると思います。ドリルをどのように走りに生かすのかも考え方は多様です。
今回の合宿、そしてケニアでの滞在を通して、ドリルに対する新たな気づきがあったので、私の考えを紹介しようと思います。

ドリルと走力の関係性
実業団の選手、ケニア選手のドリルを見てても、器用にできる選手、めちゃくちゃな動きになってしまう選手と様々です。市民ランナーや、健康のためにジョギングをする人、他のスポーツのために走る人まで、正直一般の人の方がトップの長距離ランナーよりもキレよく上手にドリルができていることも珍しくありません。
長距離の走力とドリルの精度には大きな相関関係は感じられないというのが今の私の見方です。
ドリルとランニングフォームの関係性
しなやかに伸びるストライド(歩幅)、軽快なピッチ(足の回転数)、スムーズに進んでいくトップランナーのようなフォーム、そのためにフォームドリルを取り入れようと考える人もいるでしょう。ここでいうランニングフォームは長距離走を目的としたフォームであって、スピードを最大化する短距離走のフォームではありません。
上記の走力の点でも書いていますが、実業団の選手たちがみんな綺麗にドリルをできるわけではありません。全くドリルなど習わないまま、このレベルまで上がってきた選手たちも珍しくないくらいです。
そう考えると1km3分を切るようなペースでマラソンを走る選手たちのフォームはどうやってできあがるのか。
これはやはり、練習量や練習のバリエーション、そして長い練習期間があってこそのものです。
「ドリルはやるけどあまり走らない」、「ドリルはやらないけど長く走る、速く走る、継続している」だと、やはり後者の方が長距離走に適したフォームが身につきやすいでしょう。これは極端な例ですが、やはり長距離走のフォームに対してはメインは走ることです。
それでもドリルをやった方がいい理由
ドリルを通して自分の状態を知る
合宿でドリル指導をしていると、同じく帯同していた治療の先生から「こうやってドリルの動きを見ていると選手の傾向が分かりますね」と言われました。
数日前にある選手が膝裏に痛みを訴えてきたそうで、その後の練習を見ていても、動きが速いので痛みが出る箇所と動きの関係性が分からなかったようです。
しかし、走りの動きを分割して行うドリルを見ていると、「やっぱり片方の足に地面を引っ掻く動きが出てる」というのが顕著に出ていました。
本人に確認しても「こっちの脚が動かしにくい」と話します。
走る時の不具合とドリルの動きで関係性を感じる。そのつながりをコンディショニング時にじっくり修正する。
選手が事前に自分の状態を伝えてくれるとトレーニングを進める上でもかなり役に立ちます。
何かを変えるためだけではなく、今日の動きや身体の状態を確認するためのドリルとして使うこともできます。
こう考えると、ドリルを直接的なフォーム改善、怪我の予防に繋げるというよりは、状態の確認として使い、怪我の予防、フォームの修正に間接的に繋げられると思いました。
ドリルがもたらす心理的要素
どうしてもドリルというと、フォーム改善、怪我の予防、走力アップ、などと肉体的、技術的な面に意識がいってしまいます。
ケニアのチームのトラックでの練習を訪れた日のことです。メインの練習前にそれぞれがジョギングやストレッチを済ませていました。着替え、シューズの履き替え、準備が整った段階で練習がスタートするのかと思いきや、十数名の選手たちが2列に並び始め、チームでのドリルが始まりました。
基本的なスキップ、ジャンプ動作がメインとなり5種類ほどのドリルを行います。
外から見ていて、どう考えても「それは違う動きじゃないか」と思ってしまうような不器用な選手も見かけました。そこでコーチ達からの技術的な指導はありません。全員で一連の流れを行うのがポイント練習前のルーティンのようです。
技術的な観点から言うと、指摘するポイントは多々あります。
ドリルだけならこのレベルの選手たちになると、各自でウォームアップに取り入れて済ませることもできるでしょう。花王の選手たちは使えると思うドリルを各自のウォームアップに取り入れています。
ニュージーランドのラグビー代表チーム、オールブラックスが試合前に伝統的なダンス、ハカを行っています。これを初めてテレビで観た時にすごくかっこよく思えたのを覚えています。今から最強チームが試合をするんだなと見る側にも大きな刺激をもらいました。
試合前のルーティン、特に一丸となってやることで、「さあ、今から試合が始まるんだな」というモードに切り替わるのだと思います。
あくまで私の見解ですが、ケニアチームのポイント練習前のドリルには、動きを良くするという肉体的な観点よりも、全員で練習前の気持ちを整える心理的な要素が大きいように感じました。「このドリルの後にはメインの練習がある」という心理的な刺激も込められているのではないでしょうか。

もちろん目的を理解して、精度よくドリルをやることは大切です。ただ強度の高い練習、集中力をより必要とする練習前に、心身ともに準備をするという意味でウォームアップのルーティンにドリルを組み込むことも意味のあるものです。この動きのドリルをしていると集中力が高まる、そんな形で好みのドリルを取り入れるのもありだと思います。
私がここで述べた考えは、皆さんが思っていたドリルの効果とは違うかもしれません。ただ、ドリルが目的に直接つながらなくても、間接的にご自身の目的につなげていく方法はあります。
まずはベーシックなものを一通りやってみて、「このドリルの後はなんか走りがしっくりくるな」、「なんでこの動きは左右で大きな差があるのだろう。今度、この要素を専門のコーチに聞いてみよう」など気づきを一つずつ得て、オリジナルのドリルのルーティンを作ってみてはいかがでしょうか。

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